特に消化器に異常がないにも関わらず、腹痛や腹部の不快感に加えて、便秘や下痢といった便通異常を慢性的に繰り返す状態を「過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)」と言います。命に関わるような疾患ではありませんが、電車やバスなど長時間トイレに行けない環境に不安を覚えてしまうなど、生活の質(QOL)を大きく影響を低下させます。
また、診断を受けているかどうかに関わらず、10人に1人の割合で過敏性腸症候群に悩まされているという統計があります。特に、20~30代に多く、さらに男性に比べ女性の方が1.2~1.7倍多く、年齢を重ねるごとに減っていく傾向があります。
発症する原因は、未だにはっきりと解明されていません。しかし、近年の研究で有力とされているのは、ストレスなどの精神的な緊張により、腸が知覚過敏を起こしているというものです。ストレスを受けると、脳下垂体からストレスホルモンが分泌され、その情報が自律神経を介して腸に伝わり、蠕動運動に異常が生じます。これが繰り返されることで、少しの刺激に対しても腸が敏感に反応するようになってしまっているのではないかと考えられています。
症状は、便の形状によって「便秘型」「下痢型」「混合型あるいは交代型」「分類不能型」の4つのタイプに分けられます。
腸の動きが激しくなり、便が水分を保持したまま素早く腸内を通り過ぎてしまうために起こります。1日に何度も水のような便が出て、便に粘液がつきます。男性に多くみられ、ストレスがかかると下痢がひどくなります。
腸が過剰に動くため、便の通り道が狭くなり、便秘になります。便が長時間腸内に留まるため、水分が吸い取られ、硬くコロコロとした形状となってしまい、排便が困難になります。女性に多くみられ、ストレスがかかると便秘がひどくなります。
便秘型と下痢型の両方の特徴を合わせたもので、下痢と便秘を繰り返します。ストレスを感じると頻繁に起こり、状態が不安定になります。
①~③に当てはまらない症状がでている場合に分類されます。
脳と腸は別々の臓器でありながら、お互いに情報を伝達し、影響を及ぼし合うという密接な関係があり、これを「脳腸相関」と呼びます。
今回は、不安やストレスを受けた場合に、脳と腸がどのように影響し合っているかについて解説します。
腹痛やお腹の不快感といった腸の情報は、自律神経などを介して大脳に伝わり、抑うつ感や不安などの感情を引き起こします。さらに、ストレスによって腸内細菌のバランスが乱れることで、便秘や下痢を起こしやすくなります。
一方で、脳は緊張や不安などのストレスを感じると、自律神経を介して腸を刺激します。それにより、蠕動運動に異常が生じ、腹痛や下痢、便秘などの便通異常を引き起こします。
このように、お互いを刺激し合うことによって受けた不快感やストレスがさらに刺激となり、悪循環に陥ってしまいます。
例えば、過敏性腸症候群はちょっとした刺激に対して腸が敏感に反応し、腹痛や便通異常が起こりやすい状態です。体が感じたストレスを、脳が敏感にキャッチして腸に伝わりやすくなったり、痛みを感じ取りやすくなったりするのは、この脳腸相関によるものと考えられます。
まず、一般的な検査として血液検査や尿検査、便検査が行われます。これらの検査によって、炎症や貧血などの可能性がある場合には、大腸内視鏡検査やエコー検査を、症状や年齢、既往歴などに応じて行います。
さまざまな検査によって、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの器質的な異常が見られないにも関わらず、過敏性腸症候群の症状がある場合に、診断されて、治療を行っていきます。
治療の要となるのは、生活習慣の改善です。日常生活で、次のことを見直しましょう。
毎日同じ時間に寝起きしたり、食事の時間を一定にしたりすることで、体のリズムが整いやすくなります。また、朝食後が最も排便しやすい時間と言われているので、毎日朝食後にトイレに行く習慣を付けましょう。
ウォーキングやストレッチなど、日常的に取り入れやすい軽めの運動を行いましょう。軽めの運動は、血行が良くなり、筋力アップやストレス解消にもつながるため、自律神経が整いやすくなります。就寝前や起床時に軽くストレッチをして体を伸ばすなど、日常生活の中で体を動かす習慣を付けましょう。
食事は抜かず、3食の時間を決めて食べる習慣を付けましょう。症状には個人差があるものの、脂質の多い食べ物、冷たすぎたり熱すぎたりする食べ物や飲み物、香辛料、カフェイン飲料、炭酸飲料、アルコール飲料などは、胃や腸を刺激し、さらに腸を動かしてしまう可能性があるため控えた方がよいでしょう。
胃腸への負担を減らすために、よく噛み、ゆっくりと時間をかけて食事をしましょう。しっかりと噛むことで、消化不良の予防になります。また、常温または温かい飲み物で水分補給をこまめに摂ることも大切です。
冷たい飲み物や食べ物、刺激の強い食品、さらに、不溶性食物繊維の取り過ぎは、腸が動き過ぎてしまうので注意しましょう。
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特定の栄養素で腸の炎症を改善するのは難しいといわれていますが、粘膜を強化するビタミンAを含み、胃腸に負担をかけないように脂質を抑えた、胃腸に優しいレシピをご紹介します。
食事を作る際には、食物繊維の多い食品は細かく切ること、余分な脂質を減らすために、蒸したり、茹でたりするのがポイントです。さらに、辛みや濃い味は避け、少し薄めの味付けで仕上げましょう。
材料() | 分量 |
---|---|
かぶ(小) | 1個(75g) |
かぼちゃ | 50g |
ほうれん草 | 1/5束(40g) |
鶏ムネ挽き肉 | 100g |
生姜 | 1/4片 |
酒 | 小さじ1 |
片栗粉 | 小さじ1 |
★トマトジュース(食塩不使用) | 200ml |
★水 | 100ml |
★鶏がらスープの素 | 小さじ2 |
★塩 | ひとつまみ |
じゃがいもにはペクチンが多く含まれているため、消化器の粘膜を保護すると同時に水を吸着してくれるので、腸の働きに作用し、便通を整えてくれます。
胃腸になるべく負担をかけないように今回はじゃがいもとにんじんをくたくたになるまで煮たスープをつくってみましょう♪
※じゃがいもの芽は下痢の原因にもなるので、しっかり取って、調理しましょう
じゃがいもは年中日本各地のどこかで収穫されますが、旬といえるのは2~5月、11月~12月の年2回です。
じゃがいもには粘膜の炎症を抑え、胃腸の働きを整えてくれる作用があるので、消化不良の時にはオススメです。
また、ビタミンCが豊富な上に主成分であるデンプンに守られているので、加熱しても損失が少ないので効率よく摂取することができます。更にビタミンCに並んで「カリウムの王様」と呼ばれるくらいカリウムも豊富に含まれているので、体の中の塩分バランスを調整し、高血圧予防、むくみ解消にもつながります。
材料(2人分) | 分量 |
---|---|
じゃがいも | 1個 |
にんじん | 1/3本 |
玉ねぎ | 1/4個 |
固形コンソメ | 1個 |
水 | 300cc |
塩・こしょう | 少々 |
エネルギー(1人分):1人あたり46kcal