ライフステージ別食育:高齢期(65歳〜)

ライフステージ別食育:高齢期(65歳〜)

高齢期の特徴

高齢期は、老化現象が顕著となり、さまざまな身体的変化が現れます。また、生活習慣病の症状も現れてきます。老化はある日突然起こるものではなく、加齢に伴って徐々に変化する生理的な現象であり個人差があります。老化とは、基礎代謝や心肺機能、腎臓機能の低下がみられますが、消化液分泌機能や消化管の運動機能の低下、歯の欠損による咀嚼能力の低下など、消化器系にも変化がみられます。

この時期の目標としては、老化の状態を把握して、食事を楽しみながら必要な栄養素を摂取することが大切です。

高齢期の問題点と対策

各組織の機能低下

代謝量の減少や骨組織の退化、運動機能の低下などの身体的変化だけでなく、食生活に深くかかわる老化現象もみられます。具体的には、欠歯や入れ歯による咀嚼機能、嚥下機能の低下、胃腸の消化機能の低下、胃腸の消化機能の低下に伴う便秘などがみられ、これらは食欲不振の原因にもなります。

味付けや見た目を変えて食欲アップにつなげましょう。食欲を増やすには、コショウやカレー粉などの香辛料や薬味を工夫して胃液の分泌を促すことが効果的です。季節を感じる食材や美しい盛りつけなどにもこだわってみましょう。

食欲不振と低栄養

咀嚼機能や嚥下機能、胃腸の消化機能の低下、便秘のほかにも、生活活動量の減少、風邪や発熱などの体調不良、心配事や悩み事などの精神的ストレス、睡眠不足や慢性疾患など、さまざまな原因で食欲不振となり、食事摂取量が減少します。

高齢者の食事摂取量が減少すると、まず水分の減少が起こり、続いて栄養状態が悪化した状態となる「低栄養」を引き起こします。摂取エネルギーが不足するため、筋肉などのタンパク質の分解が亢進し、免疫力が低下したり骨が弱くなったりして、感染症や骨折などのリスクが高まります。

そのため、老化予防、また介護予防の観点から、筋肉を鍛えることが重要です。身体活動量を増加させるとともに、食事では特に、タンパク質を積極的に取るようにしましょう。

また、咀嚼機能や嚥下機能の低下には、食品を軟らかく調理したり、小さく切るという工夫が必要です。しかし、料理を一律に刻んだり、すべて軟らかくするといった対処では、摂取食品が制限されるために、必要な栄養素を取りにくくなります。また、ドロドロしたものばかりでは咀嚼機能を使わなくなることにより、かえって機能を低下させてしまいます。食品に切り込みを入れたり、パリパリした食感を出すなどの工夫をし、個人の能力に合わせた食事にすることが重要です

味覚機能の低下

味覚は、舌の表面や口腔内の粘膜に存在する味蕾という部位で感知されます。この味蕾が味を感じる経路に、亜鉛の不足など何らかの問題が生じると、味を感じにくくなります。加齢とともに味を感じにくくなるため、高齢者の食事は濃い味付けになる傾向があります。

そのため、成人期の段階でできるだけ薄味に慣れておくことが、高齢期での食塩摂取量を抑えるためには重要です。食事全体が薄味であっても一品だけは濃い塩味のものを添えるなどの工夫で、満足感が得られる食事にします。

水分不足

体内に蓄えられる水分量は、加齢とともに減少し、新生児が約80%であるのに対して高齢者では約50%程度になります。重度の脱水症状の場合は命に関わりますが、軽い脱水症状の場合でも、体の代謝の低下や血液がよどみやすくなるなどの問題が起こります。特に、睡眠中には汗とともに水分が蒸発するため、朝方に脳梗塞や心筋梗塞などが起こりやすくなります。

水分不足は、普通はのどの渇きでわかりますが、高齢者は渇きを感じる神経の働きも鈍くなるため、のどの渇きを感じにくくなってしまいます。高齢者はのどの渇きにかかわらず、入浴前後や睡眠前、起床後など時刻を決めて水分を補うことが重要です。

便秘

腸の蠕動運動は、年齢とともに低下するため便秘になりやすくなります。消化によいものばかり食べると、機能低下をさらに助長してしまうのです。

腸を動かすために食物繊維の多いいも類や海藻類、豆類、きのこ類、野菜を積極的に取り、水分を十分に補うことも必要です。

骨粗しょう症

骨量は骨格の成長とともに20歳くらいまで増加して成人期にピークとなり、その後次第に減少していきます。そのため骨粗しょう症は、高齢者に多くみられます。

原因の1つは、カルシウムが不足することであるため、カルシウムを十分に摂取する必要があります。また、運動をすることによって骨の新陳代謝が活発になり、カルシウムが骨に吸着するのを助けるため、適度な運動も必要です。

ロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドロームとは、運動器機能の障害により寝たきりや、要介護になるリスクが高い状態のことをいいます。

寝たきり予防や健康寿命の延伸、QOLの向上にむけ、日ごろから体を動かし筋力低下を防ぐことが大切です。

食事では、筋肉量の低下を防ぐためにタンパク質を多く含む肉や魚、卵、大豆製品、乳製品をしっかりと取るようにします。また、丈夫な骨を維持するために、カルシウムを多く含む乳製品やカルシウムの吸収を良くするビタミンDを含む食品の摂取も心掛けましょう。

認知症

高齢期に出現する認知症は、大半がアルツハイマー型認知症または脳血管性認知症、あるいは両者が混在したものと考えられます。

認知症予防のために、ビタミンEやビタミンCなど抗酸化作用のある栄養素を含む野菜や果物、DHAやEPAなど多価不飽和脂肪酸を含む魚を取りバランスのよい食事にすることが大切です。

高齢期の具体的な取り組み

  • 1日3食きちんと食べる
  • 低栄養や偏った食事にならないように、主食、主菜、副菜をそろえて、栄養バランスが取れた食事をする
  • 健康状態や体調に合わせて食事内容を工夫する
  • 友人や家族と楽しみながら食事をするように努める
  • 地域の郷土料理などを子どもや孫に伝える
  • 歯科医院での定期健診や保健所での歯科相談などを受け、歯の健康管理に努める

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著者アイコン著者紹介

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
全国各地で様々な対象者の方向けの講演会を行ったり、執筆活動を行うなど精力的に活躍する当協会の健康管理士、管理栄養士が担当しております。
それぞれ得意の分野を活かし、今知りたい「食や健康」をお届け!
毎月の食Doのテーマや、食Do執筆の裏側を公開する「裏食Do!」(アメブロ)Instagramなどもぜひお楽しみに!!
監修:日本成人病予防協会 会長 医学博士 片野 善夫          

       
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