私達が普段嗜好品として親しんでいるお酒・お茶・コーヒー。実はこれらの中に含まれている苦味や渋味、そして香りにはさまざまな効用があることが分かっています。動脈硬化や食中毒の予防やリラクゼーション効果など、その働きを知って上手に利用し、嗜好品を健康に役立てましょう。
西欧諸国では、動物性脂肪を多く取る国ほど心疾患による死亡率が高いことが知られています。しかし、フランスだけは例外で、動物性脂肪の摂取量が多いのに心疾患による死亡率は低いのです。この矛盾は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、これを解くカギとして赤ワインが浮上しました。
心疾患などの原因となる動脈硬化は、活性酸素がLDL(悪玉)コレステロールを「酸化」させることによって生じます。それとフランスは世界第1位のワイン消費国であることを関連付けて調査した結果、赤ワインに含まれるポリフェノールが悪玉コレステロールの酸化を防ぐことが分かりました。
赤ワインには、苦味成分であるタンニン類、カテキン類、赤色の色素アントシアニン類など、多種類のポリフェノールが含まれています。赤ワインに含まれるポリフェノールは、特に強力な抗酸化作用を発揮することが分かっています。
赤ワインはアルコール分が吸収を助けることもあり、ブドウジュースよりも効果があります。また、同じワインでも、ポリフェノール含有率は色の濃いものほど高く、赤ワイン、ロゼ、白ワインの順です。白ワインのポリフェノール含有率は、赤ワインの1/10程度です。ただし、ワイングラス1杯で十分効果がありますので、大量に飲む必要はありません。
緑茶に含まれるカテキンは、ポリフェノールの仲間で苦味成分です。良質な緑茶から抽出されたポリフェノールは、ビタミンEの10倍、ビタミンCの80倍という優れた抗酸化力をもっています。また、カテキンは強い抗菌力、殺菌力をもっており、食中毒菌の中でも感染力が強い腸管出血性O-157に対しても殺菌作用を発揮し、毒素を消す働きがあります。つまり食後に緑茶を飲むだけで、食中毒を防ぐことができるのです。お寿司に緑茶がつきものなのも、生魚の食中毒を防ぐ先人達の知恵なのでしょう。
カテキンはがんの発生を抑えることでも注目されています。静岡県内のがん死亡率を調べたところ、がん死亡率の低い地域の人達は毎日緑茶を飲んでいるという結果もあります。また、お茶でうがいをするとウィルスを退治できるため、インフルエンザ予防に緑茶うがいを励行している学校もあります。
緑茶には約10~15%のカテキンが含まれていますが、もっとも多く含まれているのが煎茶で約15%、次は番茶で約13%です。紅茶でもカテキンは約5%含まれています。
コーヒーのカフェインには覚醒効果があることから、「眠れなくなる」と敬遠されたこともありました。しかし、コーヒーの香りには気持ちをリラックスさせるという相反する効果があるのです。
人はリラックスすると、アルファ波が多く出てきます。コーヒーの香りと無臭の水を数十秒間かいで測定したところ、アルファ波の出現量が多かったのはコーヒーの香りで、右脳から強く出ていました。右脳は情緒のコントロールに関係しているといわれる場所ですので、そこからアルファ波が強く出るということは、気持ちがリラックスしているといえます。
色を短時間で識別する、音の高さを聞き分けるという実験を行った結果、いずれもコーヒーの香りをかぐとその能力が向上しました。音の高さを聞き分ける実験中には、コーヒーの香りをかぐと右脳が活性化し、この傾向はかいだ香りが好きな香りの時ほど顕著な効果がみられました。
耳で英単語を聞き分けながら目で別の文字を識別するという実験でも、コーヒーの香りがある場合は無臭の場合に比べて脳の電位が高くなることが分かりました。このことは「ながら勉強」をしている時でも、コーヒーの香りが脳の働きを活性化させ、知的作業の能率アップにつながることを示しています。
コーヒーの焙煎度の違いによって、脳の状態に違いは出るのでしょうか?アルファ波を測定したリラックス度の実験では、「深煎り」の香りがもっともリラックスした状態をもたらすことが判明しました。一方、頭の回転については「中煎り」の香りで電位が上がり、「深煎り」の香りでは目立った変化が見られませんでした。
以上の結果から、リラックスしたい時には「深煎り」が良く、勉強や仕事の能率アップには「中煎り」が良いということが分かりました。