夏の訪れを告げる鮎。清流の女王とも呼ばれ、古くから日本人に愛され、人々を魅了する夏の風物詩の一つです。1年のうちの限られた期間しか楽しむことができず、この季節を待ちわびている方も多いのではないでしょうか。
今回は、初夏の風物詩『鮎』の魅力について紐解いていきたいと思います。
柳の葉のようなスリムな見た目をしており、背はオリーブ色で腹部は銀白色をしているのが特徴です。澄んだ清流に生息する淡水魚で、『清流の女王』と称され、日本では北海道から沖縄まで、河川に広く分布しています。若魚の体長は、15㎝ほどで、成魚になると20~25㎝ほどになり、最大で30㎝ほどにまで成長します。また、1年で一生を終えることから「年魚(ねんぎょ)」、スイカやきゅうりに似た爽やかなにおいがすることから「香魚(こうぎょ)」などさまざまな愛称で呼ばれています。
鮎の語源には諸説あるとされていますが、秋の産卵期に川を下ることから「あゆる(落ちる)」に由来するという説があります。他にも、神にお供えする魚であることから「饗(あえ)」に由来する説などもあります。鮎は、縄文時代の遺跡から骨が発掘されたことや、古事記や日本書紀にも記されるころから、日本の魚食文化には欠かせない存在だと考えられています。
天然の鮎は、淡水魚の中でも両側回遊魚(りょうそくかいゆうぎょ)で、川で生まれ海へ降り、再び川へ戻ってくるという特徴があります。秋ごろに川で生まれた稚魚は海へ下り、海岸近くの浅瀬で半年ほど過ごし成長します。そして、春夏にかけて川の中流までのぼり、縄張りをつくります。再び、秋が来ると川を下り、下流で産卵をしてその一生を終えます。
天然の鮎は生態保護のため、ほとんどの地域で11月~5月末頃まで禁漁期がもうけられています。そして、6月頃から解禁となり市場に出回り始めまが、養殖であれば4~5月にも獲ることができるため、禁漁期に出回るものは養殖のものとなります。
6月初旬頃に川に戻ってくる若鮎は、脂が乗りはじめ、骨が柔らかくふっくらとしているため塩焼きや空揚げにして、骨まで丸ごと食べるのに適しています。
一方、7月~8月頃には、成魚となり、胸のあたりに楕円形の黄斑(追い星)が鮮やかに出てきてきます。独特の香り高さに加え、脂が乗り、身がしまって味が凝縮されているため、塩焼きだけでなく、刺身、お吸い物や煮付けなど様々な調理法で楽しむことができます。ただし、天然の鮎は寄生虫の心配があるため、生食には注意が必要です。
淡白ながらも上品な香りと味わいのある鮎の栄養素と健康効果について解説します。
鮎は、他の淡水魚に比べて、良質なタンパク質が豊富に含まれています。可食部100gあたり、成人が1日に必要とするタンパク量の約1/4を摂ることができます。
青背魚に含まれるオメガ3脂肪酸(EPA、DHA)が豊富に含まれています。これらは、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールを減らすことで、動脈硬化などの生活習慣病の予防に効果が期待できます。また、DHAは、脳の神経細胞を活性化し、認知機能の維持にも期待ができます。
鮎の内臓には、ビタミンAや鉄分、ビタミンD、ビタミンB12などが含まれ、ビタミンAや鉄分は、緑黄色野菜のほうれん草や人参よりもはるかに多く含まれています。ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康を保つため、鼻やのどの粘膜を強化し風邪の予防に効果的です。また、鉄分やビタミンD、ビタミンB12は、赤血球の形成など血液の健康に欠かせない栄養素です。そのほか、ビタミンB12は、睡眠ホルモンのメラトニンの合成に必要な栄養素であり、神経伝達をスムーズにし、光の感受性を高め、メラトニンの分泌を促す効果があります。
鮎は骨ごと食べることもでき、成長期の子どもや成人の骨粗しょう症の予防に必要なカルシウムやリン、ビタミンDを摂取することができます。カルシウムは吸収率が低い栄養素ですが、ビタミンDを一緒に摂取することで吸収率が高まり、効率よく摂取することができます。
どちらがよいということはありませんが、生育環境の違いによって栄養価の特徴があります。
天然の鮎は養殖のものよりも、運動量が多いため脂質が控えめで、タンパク質やカルシウム、鉄が豊富に含まれています。特に、ビタミンB12が多く含まれているのが特徴です。
一方、養殖の鮎は、質のよい脂肪酸やビタミンA、D、Eなどの脂溶性ビタミンを多く含む傾向にあります。抗酸化作用の強いビタミンEは、毛細血管を広げ、血流を促進し、肩こりや冷え、肌荒れの解消などにも役立ちます。
自然の川や湖で、石についた藻類などを食べながら育ちます。川に逆らって泳ぐため、身が引き締まっており、適度な脂がのっています。
そして、なんといっても最大の特徴は豊かで独特な香りです。独特な香りの正体は、藻に含まれる不飽和脂肪酸という成分が消化酵素によって分解されたことによって作られたものだと考えられています。見た目としては、背ビレが大きく発達し、細身であごが発達しています。
エサや水質の管理が徹底されていることから、寄生虫や病気のリスクが低く、通年通して安全性が高いのが特徴です。そのため、刺身や寿司などとして安全に生食できる可能性が高くなります。脂が多めで、香りが少ない傾向がありますが、近年では、技術が進み天然にかなり近い状態の鮎が育てられるようになってきているようです。見た目としては、全体的に青黒く、背びれは小さめで顔が丸いのが特徴です。